「ふわふわ」
だんつう(緞通)という、変な名前をつけられた猫。幸せとは、温かくて柔らかいことーー。
1998年に講談社より出版された「ふわふわ」は、村上春樹さんが文章を綴り、安西水丸さんが画を描いた絵本です。
村上さんが小学校へあがったばかりの頃に自宅へやってきた、「だんつう」と名付けられた、老いた大きな雌猫を巡る記憶と物語。
柔らかな文章に、ふわふわとした触感が丸ごと伝わるような猫の画。動物と共に暮らした日々を持つ人は、きっと懐かしい、大切な記憶が蘇ると思います。
絵本を読み進めていく中で、心にじんわりと染み渡る、あたたかな一節に出会いました。一部、ご紹介させていただきます。
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ぼくがその猫といっしょに暮らしていたのは、小学校にあがったばかりの、六歳か七歳のころのことだった。名前は「だんつう(緞通)」といった。
「だんつう」というのは、中国の上等なじゅうたんのことだ。毛並みがみっちりしていて、とてもふわふわとしていて、がらがいりくんで美しかったので、父がそんなへんな名前を思いついてつけたのだ。
(中略)
兄弟がいなかったせいもあって、ぼくは学校から帰ると、いつもその猫といっしょに遊んだ。そしてずいぶん多くのことを、いのちあるものにとってひとしく大事なことを、猫から学んだ。
幸せとは温かくて柔らかいことであり、それはどこまでいっても、変わることはないんだというようなことーーたとえば。
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<書籍情報>
ふわふわ
著者:村上春樹
画家:安西水丸
装丁・デザイン:坂川事務所
発行所:株式会社 講談社
発行年:1998年
2023.11.10